ローズハーバーに私たちを送るためのゾディアックが来た。
カヤックを乗せ、移動するゾディアックを見ることはカナダでは珍しくはない。
スーザンが降りてきた。村田と再会のハグをした。
ローズハーバーでの時間が過ぎ去り、ゾディアックの速さに緊張感が体を包み込む。
150馬力2機掛けという凄まじいパワーで進む。時速80km。顔に当たる風が痛い。
会話も難しい。しかし時折海洋生物が現れると、速度を落として私たちを楽しませてくれた。
それ以外はとんでも無い速度で、進んでいく。
風景が飛び過ぎ去る中、私たちの心にはこの旅の思い出が蘇る。
海面を飛ぶように進むゾディアックは、まるで未来と過去を繋ぐ架け橋のようで、私たちを次の冒険へと誘う。見覚えのある景色が見えると、時間が戻っていくようでドラえもんのタイムマシーンに乗っているかのようだった。
海の色が変わり、見慣れた地形が現れると、自然と笑顔がこぼれる。「またこの場所に戻ってきたんだ」と、心の中で呟く。旅の始まりを思い返し、出会った人々や風景、体験した全てが今の自分を形作っていると感じる。
この旅で得たものは、決して色褪せることのない心の宝物。自然が教えてくれたこと、大切な仲間たちとの絆、そして自分自身への新たな発見。全てが一つ一つの波に溶け込み、私たちを優しく包み込んでいる。
ゾディアックの速度が少しずつ落ち、スロープが見えてくる。
カヤックを降ろし、地に足をつけた瞬間、旅の終わりと始まりが交錯した。
その瞬間を大切に抱きしめ、また日常へと戻っていく。
自然の中で過ごした日々が、これからの日々に輝きを与えてくれるだろう。
ゾディアックを降りて、モレスビーキャンプまで戻ってきた。
その時に目の前に現れた人がいた。
その人は私たちに向かって、「わたしはここに残る」と言った。
サンドスピットに降り立った時。鯨を見つけた時。テントの中でシュラフに包まり、寝返りをうった時。漕ぐ手が痛かった時。流木を集め、雨に濡れた体を焚き火で温めた時。
あなたが過ごした、すべて。
その時、その場所に、その人は「わたしはずっと残る」と言うのだ。
いずれ、私のテントの形をした跡は、また新たな苔に覆われる。
焚き火をした灰は、土へと還る。石を詰んだ跡も風で崩れる。
漕いで出来た手マメも消える。
しかしその人は「ずっと残る」と言った。
今もテントを張ったあの場所は、まだその時のわたしがきっと寝ている。
水を探しに歩いた森も、足跡に沢水が流れ続けている。
ローズハーバーのスーザン、フランシス、ゴッツ、みんな働き者で忙しなく動いている。
あの鯨も、トドも静かに海を駆け巡り、自然の一部としてその地に生き続けている。
そしてあの時のみんながまだどこかで漕いでいる。
海の香りを胸いっぱいに吸い込み、また新しい一歩を踏み出す。
ハイダグワイでの旅が終わり、日常へと戻る日々が始まった。時間がたつにつれて、私たちの記憶は形を変え、より深く、より温かく心に根付いていく。
それは、あの日々がもたらした気づきと成長が、今の私にどれほどの影響を与えているのかを静かに示してくれる。
ハイダグワイに残した「わたしたち」は、今もあの地で自然と共に過ごしている。それが私にとっての励ましであり、希望となっている。どんなに遠く離れていても、あの場所で得た教えと感動は、私を支え続けてくれるだろう。
再び訪れる機会があれば、ハイダグワイの大地に立ち、あの時の自分と再会したい。その時には、もっと多くの物語を「みんな」と話してみたいと思う。新たな視点と経験を持ち、あの場所で再び自然と調和し、心を豊かにする旅を続けていきたい。
そして願いが叶う瞬間を夢見て、私たちは日々の生活の中で小さな奇跡を探し続ける。時には、目に見えない力が働いていると感じることもあり、その神秘的な感覚が私たちを前向きにさせてくれる。そう信じさせてくれたあの日々に感謝をしたい。
Thank you for your time. 見てくださり、ありがとうございました。
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